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ある英雄のはなし

2014年12月20日(土)

彼の先祖は英雄だったらしい。
仲間と共に悪者からある町を救ったらしく、その物語は伝説になっている。
彼を見た人は皆が口をそろえて『あー、あの物語の英雄だー』というが、私は、彼が英雄であることを認めることができない。
 
私の仕事は、彼の身の回りの世話をすることなので、毎日彼の部屋に入る必要がある。
部屋に入るなり彼はなぜか私を攻撃してくる。
まるで私が悪者であるかのように攻撃を続ける。
強い。
私は防戦一方である。
この強さなら、彼の先祖が悪者を退治したという話もうなずける。
彼は英雄気取りなのか、力を誇示したいのか、攻撃の嘴をゆるめることをしない。
ただし私はなにもわるいことをしていない。

英雄は強さと優しさを持っていなければならないと思う。
優しさを持たないものはただのあらくれ者だ。
それが私が彼を認めない理由だ。
だから彼は英雄にはなれない。

かぜをひいたようだ。
くしゃみがとまらない。
『ハクション!』『ケンケン!』
『ハクション!』『ケンケン!』
彼は私がくしゃみをすると、彼は必ず返事をした。
まるでかぜをひいた私を馬鹿にするかのようだった。

さすがに頭にきた。
いままでおとなしくしていたが、今回ははっきりと言ってやろう!
優しさのかけらもないお前なんぞ英雄でもなんでもない!と。

だるい体ではあったが意気込んで彼の部屋に入ると彼の表情はいつもと違った。
馬鹿にするどころか私のことを心配している表情だった。
『体は大丈夫か?』
そんな優しい言葉をかけてくる。
もちろんそこに会話はないが、直接私の心に語りかけてくる。

その優しさに満ち溢れた彼の姿はまさに英雄にふさわしかった。おそらく彼の先祖も今の彼のような姿だったのだろう。
でもなぜ英雄である彼が私を攻撃してくるのだろう。

そうか。
訓練をしていたのだ。
いつの日かこの町が鬼に襲われたとき、この町を救うべく鬼を退治するための訓練だったのだ。
すべてを悟ったとき何かあついものがこみ上げてきた。
感動しているようだ。
涙が止まらない。

私の心が落ち着いた頃、疑問がわいてきた。『今度は誰のお供をするのだろう?』

今日もまた私は彼の部屋に入る。
『さあ訓練を始めよう!』あいかわらず彼は強い。
防戦一方である。
だが私も強くならなくては。
彼に私のきびだんごを受け取ってもらうために。





動物園飼育第二係  鈴木桃太郎哲哉

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