対馬から来たツシマヤマネコ "Beny_Sumo"
2023年12月11日、対馬野生生物保護センターからオスのBeny_Sumo(ベニー スモ)が来園しました。当園初の野生個体の受け入れになります。
なんで愛称が英語表記なのかと思いました?
私もです。発見者の方がBenyと命名し、英語にすることで海外の方にも馴染みを持って頂きたいとの思いがあるとのことです。
Sumoは何?って思いました?
私もです。美津島町の洲藻(すも)地域で保護されたのですが、この地域は、ツシマヤマネコの下島での生息確認が取れた初めての地域でもあります(ツシマヤマネコは下島での生息が絶えていました)。そこで、セカンドネームとして加えられました。でも、普段はベニーって呼んでいます。
保護した際は、左前足の一部が欠損及び骨がむき出しで、痩せ細り衰弱した状態だったそうです。詳しい保護、治療の様子は以下をご覧ください。(手術の様子などが掲載されていますので、苦手な方はご注意下さい。)
【動物たちの病院・職員ブログ「2023/05/10 下島にて、足をケガしたヤマネコを保護」】
ベニーがこのような状態になったのは「くくり罠による錯誤捕獲」が原因だと推測されています。
対馬では、ニホンジカ・イノシシの増加により農林業被害が発生すると共に生態系のバランスが崩れ、ツシマヤマネコの減少要因になっていると考えられています。そのため、対馬ではシカ・イノシシの捕獲を実施しており、その際に使用する罠の1つが「くくり罠」になります。
【写真:くくり罠(設置状態)】
【写真:くくり罠(作動状態)】
「錯誤捕獲」とは、捕獲対象以外の動物を誤って捕まえてしまうこと、要は「シカを狙ったのにヤマネコがかかってしまった」ということです。くくり罠にかかると見た目は大きな被害がないように見えますが、適切な治療をしないと足が壊死し、致命傷となるためツシマヤマネコの減少要因の一つとなってしまっています。
シカ・イノシシの捕獲頭数を増やすとなると設置する罠の数も比例して多くなり、結果としてツシマヤマネコの錯誤捕獲も近年増加傾向にあるというジレンマになっています。
対馬野生生物保護センターでは、ツシマヤマネコ等の保護・治療のほか錯誤捕獲が起きにくい捕獲方法の開発・普及、錯誤捕獲時に大きな怪我をしにくい罠の開発、錯誤捕獲時の早急な通報のお願いを周知して錯誤捕獲によるツシマヤマネコ被害の減少に努めています。
ベニーは治療の経過で左前足すべてを失いましたが、幸い命は助けることができました。しかし、前足を失ったことで野生では獲物を狩ることが難しくなり、飼育下で生きていくこととなりました。動物園では獲物を狩る必要はありませんので、ベニーは新たなファウンダー候補(仔を残すまでは"候補"と呼ばれます)として当園に来園しました。繁殖の可能性においては昨年に保護、治療され福岡市動物園に導入された右前足断脚のオス「No.102たんぽぽ」が交尾できていますので(出産には至らず)、ベニーも問題ないと判断しています。今後、「No.89レイラ」、「No.99りん」との繁殖を狙ってペアリングしていきます。
ベニーは12/26より公開の運びとなりました。
【写真:12/25のBeny_Sumo】
長々書きましたが、当園はベニーの来園、公開にあたって「錯誤捕獲による現状」を広く普及啓発することも目的としております。これは、当園の発信により対馬内外に広く周知することによってツシマヤマネコの被害を抑えることに繋がると期待されているからで、当園に任された仕事の一つです。
と言うことで、ベニーとともに対馬の現状を知っていただきたいと思います。
動物園飼育第一係 加藤 俊紀