動物講演会2021~おいしいユーカリの葉を求めて~
2021年11月13日(土)
動物講演会は東山動植物園の文化事業の一つで毎年、外部講師をお招きして11月に開催しています。
今年は野生動物の遺伝子の研究をされている早川卓志さん(北海道大学大学院・地球環境科学研究院・助教)に、コアラについてのご講演をお願いしました。
北海道大学大学院・地球環境科学研究院・助教 早川卓志博士
日本で野生コアラの研究をされている方は多くありません。もとはサル類の研究者ということですが、世界をリードする京都大学霊長類研究所のノウハウが生かされています。
当日ご参加できなかった方のために講演内容を少しご紹介しますね。
コアラと言えばユーカリですが、その食べ方が北半球のサル類とは大きく異なることに早川先生は着目しました。サル類が「パクパク」とテンポよく食べるのに対し、コアラは「ジー・クンクン・パク」とても慎重で時間かけて吟味して食べているということです。確かに当園のコアラもユーカリなら何でもいいという訳でなく特定の種しか食べませんし、個体ごとに好みも違います。
早川先生によれば、毒素も含むユーカリに対抗するためコアラは様々な戦略を講じているとのことでした。その一つがお母さんからの離乳食であるパップ。これでユーカリの消化に必要な腸内細菌を獲得します。
そして大きな鼻で嗅覚を使っての嗅ぎ分け、さらに最近の研究で分かったのは、舌の味覚で特に苦みを識別する能力が有袋類のうちで最も発達していたということです。
コアラが解毒能力と識別能力の二段構えで多様なユーカリの中から安全なユーカリを選別して食べていることを裏付ける発見です。
ご講演中に、早川先生が平川動物公園のコアラの調査で訪れた際に当園から移動した"インディコ"と再会され、とても元気に過ごしていたとのご報告があり、会場から安堵の声が上がりました。もちろんお父さんの"イシン"も健在です。
ユーカリを慎重に吟味するコアラ「イシン」
また先生には飼育下のコアラの遺伝的な多様性の研究にもご尽力いただいています。秋まつりのこの機会にご来園いただき当園のコアラたちがユーカリをどのように食べているのかじっくりと観察してみてはいかがですか。
動物園長 黒邉 雅実