カツラの甘い香り
植物園門の近くに立つと、どこからともなく甘い香りが...
実はこれ、門を入ってすぐ右のカツラの木の葉の香りなんです。
カツラの葉は、黄葉になると、キャラメルのような甘い香りがするようになります。
今年は、梅雨明け以降、雨がほとんど降っていません。
水を好む木であるカツラは、一部の葉を黄葉させて、水不足に対抗しているようです。
さて、能に「三山(みつやま)」という曲があります。
大和三山の妻争いの神話を人間世界に置き換えたもので、桂子と桜子という二人の女性が、一人の男を巡って争う、という物語です。
言い争いの中で、花の美しさを誇る桜子に、桂子は苦々しげにこう言います。
「花物いはずと聞きつるに、など言の葉を聞かすらん」
...花は寡黙なカツラの木ですが、じつは葉はこのように饒舌です。
植物園へお越しの際は、すぐに目につく盛りの花ばかりでなく、カツラの甘い言の「葉」のような、奥ゆかしく目立たないものにも、五感を澄ましてみませんか?
※カツラは、水車小屋の近くと、星が丘門の所にもあります。
いずれも甘い香りを漂わせています。
植物園指導園芸係長 中村 成利