暑さ対策とアニマルウェルフェア(動物福祉)

2026年08月30日(日)

暑い季節になると、来園されたお客様から『こんなに暑いのに、どうして動物をエアコンのある部屋に入れてあげないんですか』というお声をいただくことがあります。今回はその理由をご説明します。

東山動植物園では、エアコンのある部屋がある動物については、熱中症の危険があるほど暑い日には、部屋と屋外を自由に行き来できるようにしています。エアコンのない施設の動物にも、扇風機を回したり、日陰を広くしたり、水浴び場を用意したりして、選べる場所をできるだけ増やしています。

アニマルウェルフェアの考え方では、「いやなことを一切経験させない」ことよりも、「動物が自分で環境に働きかけて、乗り越える力を身につけられること」が大切だとされています。過ごす場所を自分で選べるようにするのは、そのための工夫のひとつです。

インドサイ.jpg 35℃以上の暑い日に木陰や水場があっても日向でのんびり過ごすインドサイ(8月撮影)

ただ一方で、動物にまかせきりだと、外に出ないことばかりを選ぶようになってしまうことがあります。その場合、環境の変化に適応する力が身につきにくくなってしまい、一生涯を通じたウェルフェアの低下につながりかねません。そのため、夏の間でも気温がそれほど高くない日を選んで、屋外だけで過ごす時間を設けることがあります。適度な暑さを何度も経験することで、いろんな環境に適応できる力を身に着けてもらうためです。

たとえばスマトラトラは、部屋に入れない日でも、日なたで体を温めたり、日陰で涼んだり、水場で遊んだりと、そのときどきで自分に合った場所を選んで過ごしています。限られた環境の中でも快適な過ごし方を見つけ、適応する力を身につけている姿です。

スマトラトラ.jpg

日中に外で過ごす場所を選ぶスマトラトラ(7月撮影)

また、動物が部屋の前にずっといると、『入りたいのに入れてもらえなくてかわいそう』と感じられるかもしれません。ただ、欲しがるそぶりを見せたからといって、それが本当に必要なものだとは限りません。「入れないと困る」というより「気になるから見てみたい」という一時的な興味であることも多いためです。研究でも、水や休む場所のように本当に必要なものは、手間がかかっても求め続けるのに対して、興味本位の欲求は手間がかかると急に弱まることがわかっています。欲しがるものをすべて与えるより、それがどれくらい切実なのかを観察で見きわめて適切に対応することが大切だとされています。

もちろん、「自分で乗り越えられる程度のストレス」は動物の適応力を育てますが、「乗り越えられない、ずっと続く強すぎるストレス」は動物の心と体を痛めてしまいます。その境目は動物の種類や個体によってちがうので、気温などの目安を参考にしながら、私たち飼育員が毎日の観察と経験から見きわめて対応しています。

動物園での暮らしは、野生に比べて変化が少なく単調になりがちです。乗り越えられる範囲の変化を用意して、動物たちが本来持っている力を引き出すことも、私たち飼育員の大事な役割です。ご理解いただければ幸いです。

飼育第一 江口

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