ツシマヤマネコの排卵とか...

2026年08月05日(水)

ツシマヤマネコが含まれるネコ科動物は、イヌやヒトなどの多くの哺乳類とは異なり「誘発排卵」性の動物で、交尾による物理的刺激によって排卵が起こります(イヌやヒトなどは周期的に自然と排卵が起こる自発排卵性の動物です)。

しかし、交尾刺激がなければ絶対に排卵しないかというと、そうではありません※1。
交尾刺激がないまま排卵してしまう例もあって、ツシマヤマネコでもそこそこあり、我々の頭を悩ませてくれます。

例えば、2022年のNo.89レイラ、2023年のNo.81結は、交尾をしていないのに発情兆候が見られなくなってしまい、「おかしい...」と思っていたら排卵していました。交尾をしていないので当然妊娠はありません。

そのうえ、誘発排卵性動物は一度排卵してしまうと黄体期(いわゆる偽妊娠)に入るため、発情が再開するまで50日程度かかり、その間はペアリングができません(しても意味がありません)。

さらに、ツシマヤマネコは季節繁殖動物なので、50日間も間が空いてしまうと繁殖期の終わりも見えてきてしまい、担当者は絶望の淵に立たされます。
繁殖期の最盛期に発情兆候が見られなくなり、何かおかしいと思いながらも次の手を考えるのですが、どうにも上手くいきません(偽妊娠中ですから何をしても無駄です)。しかし、排卵したかどうかは通常わかりませんので、無駄なのを知らずにあがき続けることとなります。

そんな時に担当者を楽にしてくれるのが糞中ホルモン測定です。

非侵襲的にホルモンで発情・排卵・妊娠を捉えて、ツシマヤマネコの繁殖生理を解明することを目的に、岐阜大学動物保全繁殖学研究室とJAZA(日本動物園水族館協会)の共同研究として、繁殖期を通して糞からホルモンを測定しています。

測定結果から、交尾していないのに排卵してしまっていることが判明し、無駄なあがきを止めることができます。そして、繁殖させるベストな時期に待ちぼうけを食らうという事実と共に、次の一手に向けての時間を得ます。


糞中ホルモン測定値の実例.jpeg
【糞中ホルモン測定値の実例】
加藤ら(2025)※2より引用.
糞中ホルモン測定値と行動記録の妊娠事例のグラフ

2026年は3頭のメスで繁殖に臨みましたが、2頭が交尾をしたものの妊娠せず、1頭が交尾刺激なしに自発排卵してしまい発情再開後も交尾せずという残念な結果となってしまいました。

ただ、妊娠はしなかったものの、2頭のメスは交尾までもっていくことができました。複数個体で繁殖を目指す場合、どのタイミングで、どの個体に注力するか、パズルのように複雑になり頭の中が大混乱となるのですが、ホルモン動態の把握から適切な判断が下せた結果だと思います。

妊娠しなかったのはまぁ...なんともしようがないです。


2026年ペアリングの様子.JPG
【2026年ペアリングの様子】
左:Beny Sumo(オス),右:したる(メス)

昨年に続き、今年も皆様のご期待に沿えず申し開きのしようもございません。私の力不足です。決して「メス3頭とも妊娠させて100点だわな」と笑顔で言い放った先輩の温かく優しい助言の圧に潰されたわけではございません。。。
周囲の言葉に耳を傾けながらも、巨人の肩の上に立つつもりで繁殖成功に手を伸ばしたいと思います。


※1 Thongphakdee, A., Tipkantha, W., Punkong, C., & Chatdarong, K. (2018): Monitoring and controlling ovarian activity in wild felids. Theriogenology, 109, 14-21.

※2 加藤俊紀,玉村友朗,白木康雄,井戸優海,楠田哲士,細江航(2025):ツシマヤマネコPrionailurus bengalensis euptilurus左前肢欠損雄個体の飼育下繁殖成功例.動物園水族館雑誌,67(3):77-81.

動物園 加藤

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