ツシマヤマネコの移動のその後

2026年03月10日(火)

 ツシマヤマネコは複数の施設で協力して保全している特性上、現状では毎シーズン移動を行なう必要があります。
当園も今シーズン転入3頭、転出1頭、一時的な転出1頭と合計5頭の移動がありました。

 ツシマヤマネコはイエネコとほぼ同サイズですので、移動に関して特別なことはなく、自動車・飛行機・鉄道のいずれかでイエネコ同様に運搬されます。ペットを連れての帰省や遠くの動物病院まで通院するイメージでしょうか。

 そして、転入してきたネコたちは「借りてきた猫」のようになっているため(特にメスは)移動後の環境に適応するまでに時間がかかることが多いです。そこで、転入してきた「No.68りょう(オス)」、「No.86ゆり(メス)」、「No.103したる(メス)」が適応するまでの期間を調べてみました。

 ツシマヤマネコ舎に収容後、1週間ごとに2ヶ月分の行動調査を実施し、パドック利用中の常同行動(※1)の割合を出しました。比較対象として、当園で6年間飼育している「No.89レイラ(メス)」も同様に行動調査します。

図転入後常同行動割合.png

 「No.86ゆり」は始め、高い常同行動割合を示していましたが、1ヶ月過ぎると大幅に低下して比較対象の「No.89レイラ」と同様のレベルとなりました。このことから、適応するのに1ヶ月ほど必要だったことがわかります。


 一方、「No.68りょう」と「No.103したる」は始めから低く、まったく動じていない様子がわかります。と言うのも、「No.68りょう」は1歳半から2歳半の間、当園でミキシングを実施しており今回は約10年ぶり2度目の東山になります。「No.103したる」は当園生まれの人工哺育育ちで約2年ぶりの実家となります。


 ネコの長期記憶はまだ研究中でよくわかっていないようです。しかし、「No.103したる」は明らかに飼育員への対応が異なるので、よく覚えているようです。「No.68りょう」は高齢なので今までの経験値もかかわっているかもしれません。
 また、今回は対象外としましたが、「No.105BenySumo(オス)」も2ヶ月程よこはま動物園ズーラシアへ一時的に行っていましたが特に気にする様子もなく、戻ってすぐにパドックで過ごす姿を皆様にご覧いただけましたし、メスとも仲良くしています。

 落ち着いた状態でも多少常同行動がみられるのは私の課題ですが、これは主に環境エンリッチメントやトレーニングの準備を獣舎内でしていたり、収容時間が近づいてきたりでネコたちがソワソワしている時に出ているようです。

ちなみに、環境エンリッチメントは飼育動物の適応能力を向上させることがわかっています。トレーニングは飼育動物のヒトへの馴化を進めます。

 皆さんのお家の猫も新しい環境や人が苦手だったりする子がいるかもしれませんが、環境エンリッチメントやトレーニングをすることで軽減できるかもしれませんよ(ただし、イエネコはコントラフリーローディング(※2)がみられない動物ですので、採食エンリッチメントをする場合は簡単なものにするのがいいと思います)。

動物園 加藤

※1常同行動:規則的に繰り返される行動のうちで、普通にみられず、目的・機能がはっきりしない行動。環境への不適応の表現または、不適切環境に対する適応行動とみられ、葛藤・欲求不満状態に由来する行動。(動物の行動と管理学会(2024):改訂版動物行動図説 : 産業動物・伴侶動物・展示動物・実験動物.192pp.朝倉書店,東京.)

※2コントラフリーローディング:ただ食糧を与えられるよりも、何かしらの対価を払うことで食糧を得ることを好む傾向のこと。(Inglis IR, Forkman B, Lazarus J (1997) : Free food or earned food? a review and fuzzy model of contrafreeloading. Anim Behav 
53:1171-1191.)

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