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採食エンリッチメントの効果は?

2025年12月09日(火)

紙で包まれた肉とNo.68りょう_2025.JPG

環境エンリッチメントは効果の評価をおこなうことが肝要です。期待した効果が得られているのかどうか、効果がなくなっていないかを評価して改善していくのですが、中でも採食エンリッチメントは餌を使用するため効果がみやすいものかなと思います。

ツシマヤマネコに実施してきた採食エンリッチメントは、どれもベンガルヤマネコなどの小型野生ネコ科動物による先行研究(みんな似たようなことを考えるもので、ありがたいことです)を参考にしたため効果はあるだろうって感じでやり始めました。とは言え、ツシマヤマネコに効果がどれだけあるか、過去(2023年)に調べてみたので紹介しようと思います。採食エンリッチメントをひとまとめに効果の有無を調べました。

対象個体は、人工哺育で成育したNo.103したる♀0歳(当時)です。単独人工哺育の個体は、人がいない時間帯は全く動こうとしないことがわかっていて、エンリッチメントによって改善するべくその効果を調べました。


方法は、一日ごとに「実施なし→実施あり→実施なし」の3日間/週とするABAデザイン(介入日を非介入日で挟むことで介入内容以外の影響がないことが確認できる手法)にして6週にわたって記録しました。朝から夕方までの約7時間で、全てを記録するのはしんどいので1分間瞬間サンプリング(1分毎の行動を記録する方法)としました。監視カメラと表計算ソフトさまさまです。延べ18日間分(7650個)のデータを採り、各行動を"活動(移動、探索、遊び行動)"、"非活動(休息、毛づくろい)"、"常同行動"に区分してグラフ化しました。

100%積上げ棒グラフ.jpg
採食エンリッチメントを実施した2日目のみ"活動"が増加し、"非活動"が減少しているように見えます。"常同行動"は変化がないようです(人工哺育個体は人の気配がするとテンションが高まって常同行動同様の動き方をするので、この常同行動もそれだと判断しています)。2日目に変化があって、3日目に元に戻っているので2日目の変化は偶然などではなく採食エンリッチメントの効果だと言えます。

箱ひげ図.jpg
各行動別に箱ひげ図で見てみます。上記の棒グラフで変化があるように見えた部分がはっきりとします。ただ、統計解析をした結果すべての項目で「有意差なし(差があるとはいえない)」と出ました。6週分のデータでは少ないようです。

データを採ってみた結果、当時実施した採食エンリッチメントには遊びや探索などの活動的な行動を増加させる傾向がみられましたが、それを統計的に示すことはできませんでした。とにかく動けばいいと言うものではありませんし、実際には他のエンリッチメントも併用するので、まあこんなところでしょうか。

イエネコの研究ではコントラフリーローディングがみられなかったり、おもちゃや匂いの刺激より人との接触を好むことが示されているので、ツシマヤマネコも社会エンリッチメントや空間エンリッチメントに力を入れる方が効果的なのかもしれません。ちなみに「したる」はこの後、フラッディングを実施し、さらに井の頭自然文化園へ移動して同世代のアムールヤマネコとミキシングをおこなっています(個人的には単独未成熟個体に対する環境エンリッチメントはミキシングが最強だと思います)。

このようにデータを採るのはなかなか大変な作業で、必要なことですが頻繁にはできません。なので、普段は効果があるだろう程度の感覚で実施して観察のみで何となく評価・実施しているのが実情です。たまに、このようにしっかり評価してみるとそれを基準に仕切りなおします。

みなさんも、お家のペットや動物園のお気に入りの個体で試しに行動観察して数字(グラフ)でみてみると「思っていたよりも」ということが見えるかもしれませんよ。

動物園 加藤

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